春のゴールデンウィークと、夏の夏休み。
一年に二度のロングツーリングのチャンスを生かして、もう10年も走っている。
夏は、北海道が中心。春は九州、四国、山陽、山陰と南に向かう。
東京から近い伊豆や信越は1、2泊のツーリングでかなり行っている。
でも、能登半島は走っていない。なんとなくチャンスがなかった。
初めてバイクで旅に出た時に、最後に寄り道したのが能登半島、輪島だった。
学生時代、それから何度か行った輪島だったが、バイクでは皆無。
ずっと気になっていて、行ってみたい場所だった。
実は、青春時代の想い出溢れる場所でもある。少し恥ずかしい。
化石じみた思い出に、もう一度会って見るのも良いかなあと考えて、
春のプランを考えてみた。ノスタルジーな旅になりそうだった。

■能登半島は走っていないぞ。走ってみたいぞ。

能登半島と言えば、気になる旅館が一軒あった。能登の最も北の端、金剛崎にある「ランプの宿」だ。雑誌やインターネットなどで見るといかにも古めかしく、情緒があって、一度は泊まって見たいと思ってしまう。料金はかなり高いのだが、一生に一度ならいいかなとも思えるくらいだ。2、3年前、能登なら1泊でも行けるぞと思い、思い切って予約の電話を入れたことがある。ところが土日の予約は3ヶ月先まで満員だった。今週末に行くぞと思っていたのだから、当然予定したいた日程では泊まれるはずもない。キャンセルがあったら連絡だけはもらえることになった。とんでもなく人気の宿だったのだ。
その後この宿は、宿のホームページなどを時々見ていたのだが、ある日とてもショックなページを見てしまったのだ。この宿の主人と称する方のプライベートなブログだった。宿の持つ風情や素朴なイメージとはかけ離れた驚くべき自慢話ばかりのブログなのだ。ぶらっと出掛けた東京で、フェラーリのテスタロッサを見かけ、衝動買いしてしまった、とかオーストラリアでヨットを買って、日本に運ぶ途中に沈んで何千万円も損をしたなど、自分では悪運の話としているが、読んでいる側からすれば全くもって田舎の成金の無駄遣いの痴話に他ならない。それで、この宿はすっかり嫌になってしまった。まあ、旅館という事業をやっているのだから儲けてはいけないとはいわない。儲けるべきだろう。しかし、客の立場にして見れば、遠く奥能登の風情を楽しみにやってくるのだ。イメージでは電気もなく、ランプだけで生活をしているようなイメージを持つ。都会を離れて暫しの脱現代文明を楽しめるだろうと想像してくるのだ。しかし、その宿の主人が実はフェラーリに乗ている、大型ヨットでクルージングを楽しんでいると知っては、なんだか宿代を暴利に取られているような気がしてしまう。客には不便な思いをさせておき、その裏で莫大に儲け、全くの無駄遣いに費やしているのだろうと想像してしまう。宿の主人だからといってフェラーリを持ってはいけないなんて思わない。そんなの個人の自由だし、儲かっているなら何に使っても文句のつけようがない。しかしさ、そんなこと公に自慢しないで欲しい。せっかくあるイメージを持って、楽しみに行きたいと思っている客へのイメージダウンだ。実際自分は、そんな主人の経営している宿には金輪際行きたいとは思わなくなったのだ。
そんなわけで能登に行く楽しみをひとつ失ったことなどから、能登へのツーリングは少し遠のいていた。ゴールデンウィークの1週間を使っての旅にしては距離的にも近いし、いつでも行けそうな気持ちも少し邪魔していた。でも、今年はかなり早い時期から能登に決めていた。昨年バイク仲間のririさんたちが能登のツーリングに行っていた。自分は、瀬戸内海の旅に出たのだか、ちょっと羨ましかった。来年こそはと思っていた。そこで、「ランプ・・・」に代わる何か楽しみを見つけようとインターネットを徘徊していた。コースとしては、なんとしても能登半島の海岸線を一周したかったので、北の外れまで行くことは確実。輪島は想い出の場所なので一泊はしたい。それだけで終わると、なんだ2泊3日で行けちゃうじゃないかと、盛り上がらないままだった。いろいろ調べていくうちに能登半島の最北端、狼煙の街に「狼煙館」という民宿を見つけた。宿のホームページを見ると、漁師の宿ということで夕食が海の幸に溢れている。これはよさそうだ。だいいち名前がなんだかそそられる。ランプ・・なんてどうでもいいからここに行ってみようと、ひとつ楽しみを見つけた。
お正月のNHKの特別番組だったろうか、白川郷の真上をカメラを積んだハングライダーで飛ぶ映像を見て、ただただ凄いなあと感動してしまった。飛騨白川郷は、もちろん写真やさまざまな映像でその存在は知っていた。知ってはいたが、まあそのうち行けるだろうくらいで深い関心にはなっていなかったのだが、この映像を見て一気に行きたくなったのだ。能登の帰りに行けるかもしれない。そんな思いを持ち始めた。そして、木曽路。木曽路は、30年以上前に一度だけ行ったことのある場所だ。それも学生時代の友人が、アルバイト代が入ったので、交通費は出してやるからいまから行こうと誘われ、ヒョコヒョコついて行った旅だった。そのころ文学部にいたくらいだから木曽路が島崎藤村くらいのイメージはあったが、別にそれが目的でも、それが原因でもない。だだ交通費無料に惹かれて行った旅だった。それでも、そこはなかなかの青春の想い出が生まれた場所になった。まるで別人のように思える学生時代の自分が、忘れることのできない場所。いまでも大切だと思っている場所。30年経って、もう一度行ってみるのも悪くないなあと思った。まるで昔見たドラマの舞台を見るような客観的な気持ちで訪れることができそうだった。それだけ長い年月が流れたのだ。

■1000円高速道路。めちゃ渋滞じゃないのかなあ。

もともとのプランは、東京から中央高速で松本まで行き、山道を越えて富山に出るつもりだった。あの野麦街道の恐怖のトンネルを通って、安房峠を越えて(トンネルだけど)、富山まで山道を楽しむ。かなり期待のコースだった。ただ、トンネルより怖かったのは、渋滞だった。一度野麦街道でひどい渋滞にはまったことがある。山道、特にのぼりでの渋滞は全くの悲劇だ。しかも道幅が狭くすり抜けることもできない。連休中のいま、渋滞の可能性はかなり高い。嫌だなあ・・と、その記憶が甦ったのと高速道路が土日1000円になってしまったことのショックで、富山まで高速で行くか・・と思い始めた。まあそれは、当日の気分でと考えていたが、やはり出発すると、すっかり弱気になっていて、1000円で行けるところまで行ったほうが得じゃんと、すっかり高速の気分になっていた。1000円になっていたとはいえ、高速は順調で松本まではほとんど渋滞のないまま走行できた。これはかなり早く着くなあ、と思っていると掲示板に渋滞の情報。なんでーーーという感じだったが、行って見て納得できた。二車線だった高速が、途中から一車線になっている。しかもトンネルばかりの道だ。スキーで信州中野辺りまでは何度も行っているが、その先の記憶は曖昧だった。そっか、これが渋滞の原因か。しかし、この長野道から北陸道に抜ける道のりは、まだ100km近くもありそうだ。このまま付き合っているとかなりの時間無駄だ。一車線の場合は路側帯をすり抜けるしかない。明らかに道路交通法違反だ。できればやりたくないのだが、さっきから何台ものバイクが路側帯をすり抜け、左側を抜いていく。あれっ、絶対50歳を超えているハーレーのおやじまですり抜けているじゃないか。10分、20分。ノロノロを我慢していたが、その限界が来てしまった。2台ほどのバイクが左側をすり抜けて行くのに続いて、遂に路側帯走行が始まった。早い、早い。いままでのノロノロが嘘のようだ。しかし、警官が待ち構えていて捕まるリスクはかなり高い。できる限り前方を注意しながら恐る恐る走る。一度走り始めると、なかなかやめられない。おかげで渋滞は、なんとか通過することができて、北陸自動車道にたどり着いた。ここからはきわめて順調だ。スイスイ、ラクラク走る。しかし、この道は良過ぎるくらいいい。もったいないとは言わないが、随分お金がかかっただろうとぞっとする。日本中に高速道路網を整備する必要はあると思うが、ここまで凄い道を作る必要があるのかははなはだ疑問だ。まあ、将来のためのインフラだと思えばいいのかもしれない。おかげで随分早く富山に着くことができる。快適で、楽なのではあるが、あまりにトンネルの多さ、長さに、工事にかかったお金が気にかかる。
5時前には富山の市街に入ることができた。地図で場所はあらかじめ確かめてはあるが、実際に行ってみないと詳しい状況は分からない。カーナビの案内どおりにバイクを走らせ、ホテルのまん前に到着した。問題は駐車場で、あらかじめ聞いていたのは、ホテルの正面の有料駐車場に一泊500円で駐車できると言うことだった。安全に、快適に停められるのなら、500円は安い。その駐車場もすぐに確認できたのだが、道路の真ん中には路面電車が走っている。その複線の線路を横切って、駐車場のスロープ状の入り口に入っていかなければならない。だいたい路面電車などというものは、東京にはない。だから、地方で路面電車が走っているだけで、なんだか場違いな感覚に襲われる。踏み切りもない場所で、電車の線路を横切ることに全く知識も、経験もないのだ。正直、恐ろしいのだ。どういう規則で路面電車とクルマ、バイクとが共存しているのかを全く知らないのだ。最近ようやく路面電車も信号を守るらしいことは分かってきた。でも、右左折のときの優先順位などは分からない。と、つべこべ悩んでいても始まらないので、両方の電車が来ないことを確認し、クルマも来ないことを確認して、思い切って横断した。大成功だ。なんとかなった。次に駐車場のスロープの途中にある料金所でカードを受け取ろうと「入り口」とはっきり書かれたゲートに進んだが、カードが出てこない。だいたいスロープの途中にゲートがあることが気に食わない。カードを引き抜くためには、右手をハンドルから離さなければならない。右手は前輪のブレーキだぞ。そこで後輪のブレーキである右足でしっかりペダルを踏み込まなければ、スロープの場合バイクはズルズル後ろに落ちるのだ。右足でペダルを踏むということは、左足が地面に着いている。当然バイクは左に傾く。左に傾いたバイクで右側のカードを引き抜かなければならない。よっぽど接近してうまく停めなければ、カードに届かないことになる。なんという不合理だ。なんという理不尽だ。バイクのことも少しは考えろ、といいたくなる。それなのに感知していないのだ。一体どうすればいいのだ、とムカッと来ていると、のんびりとジジイが一人管理人室から出てきた。
「そっちじゃ駄目だよ。こっち」と出口側を指し示す。一度バックして、もう一度出口側から入れと言うのだ。
「出口って書いてあるじゃないか」と言うと、なんだか不機嫌そうに、
「バイクはこちっなんだ」と言う。
「それならば、入る前に分かるように書いておけよ」とかなり強めの口調で抗議する。
「なにい、そういう下らんこと言うな」とジジイも強気だ。何が下らないことなのか、全く意味が分からないものの、バイクをバックさせ、出口側にバイクを進めた。スロープのおかげでバックも楽で、意外とスムースに出口側にバイクが入っていったので、突
然気分がよくなってしまった。ジジイがカードを抜き取って手渡してくれる。まあ、親切ではあるらしい。
「出口から入ったなんて、初めだぜい」とジジイを睨みつけ、おお、もうちょっとで今日の走りも終わるのだとちょっとホッとしていた。駐車場は中もスロープが続いていて、短いターンを繰り返す。やっと空いていてのは4階で、なんだか悔しいので、クルマ一台分に堂々と停めた。広々としていて気持ちいい。荷物を降ろし、ホテルに向かった。一日目の走りは終了だ。この気分がなかなかいい。ビールが飲めるぞ、とかなりワクワクする。

富山での夕食は、あらかじめ何件か調べてある。その中でそれなりに高級そうな店にまず電話して見た。生憎にも予約で満員だ。ホテルから貰った案内なども参考に、もう一軒電話。ここもいっぱい。ちょっと嫌になって、案内地図を見ていると、ホテルから1分ぐらいの場所にホテルお勧めの店がある。もうここでもいいやと、電話して見るとカウンターなら空いているとのこと。
「それじゃあ、お願いします。シャワー浴びたらすぐ行きます。20分ぐらいです」と予約を入れて、それでもたいした店ではないだろうと悪いほうに期待しながら、シャワーを浴び、のどをカラカラにして出掛けた。なんと1分どころかホテルの目の前ではないか。30秒で到着だ。店構えはなんだか寂しいものの、店内はそれなりの居酒屋だ。名前は「会乃風桜木」。カウンターのすみに座り、当然まずビールだ。
「なんかさーー、富山って感じの物食べたいなあ。ホタルイカはもうないの」と知ったかぶりをして聞いてみる。
「ありますよ。刺身で良いですか」となかなか感じのいい返事が返ってきた。
「シロエビもありますよ」と続けていい会話。シロエビと言えば、「富山湾の宝石」とも言われている富山だけの名産ではないか。冬のものだとばかり思っていたので、とても意外だった。
「おお、まだ食べられるんだ。それもくだちゃい」と可愛く返事をして見る。おお、この店は案外当たりだったかも知れないと最初のビールをグイッーーーッと飲む。うまい、死ぬほどうまい。500km走ってきて、シャワーを浴びて飲むビール。こんな幸せを味わっていいのだろうかと思うほどの満足感。ビールを最初に創ってくれた人に大感謝だ。ちょっと筋違いな感じもするが、ともかく絶頂感なのだ。
しばらくするとホタルイカが登場した。想像では刺身と言えどボイルしたごく当たり前のホタルイカを想定したいたのだが、いきなり生で出てきた。刺身は生だろう、とジャックナイフをつき付けられた感じだ。ピカピカ光ったホタルイカがなんだか艶めかしい。グンニャリ成すがままの一匹を箸に挟み、しょうが醤油につけ、抵抗も許さないまま口に運ぶ。見た目どおりのグンニャリ、ネットリである。凄い征服感である。これが本場のホタルイカ。しかも本物の生の刺身だ。東京で食べていたホタルイカ、あれはなんじゃいと急に富山人になってしまう。ホタルイカひとつで、こんなに感激できるのだから旅はやめられないのだ。
次に出たのが「シロエビ」。えっ、これがと目を疑うほどエビの形とは程遠い。イカの切り身に昆布が巻いてある感じだ。そうそう、シロエビの刺身は、あの小さなエビを一匹ずつ解体して身だけを取り出すのだ。それを板状にしてとろろ昆布でまとめてある。実はとても手のかかった料理だったのだ。これもまた、東京での認知率は1%を下回るであろう稀少メニューだ。ここで紹介するのもちょっと憚れる感じだが、思い切って写真入だ。富山の日本酒と言えば、「立山」だ。ここでも冷酒で「立山」をいただく。いやあもう、満足そのものではないか。うまい魚とうまい酒。一日の疲れと安堵感も手伝って、酔いは程よく回る。オヤジの幸せを全身で味わっているようだ。焼き魚を聞いてみると、これまたなんと「のどぐろ」があると言う。「のどぐろ」と言えば、日本海最高の高級魚ではないか。特に油の乗った冬の「のどぐろ」は、焼き魚の神様とも言える名物だ。東京ではほぼ、めったにことではお目にかかれない。これを食べない手はない。と言うわけで、この高級焼き魚も注文して、富山の夜はどんどんご機嫌になる。旅に出ないと味わえない喜び、満足。オヤジはしみじみと人生の充実を感じながら酔い潰れていくのだった。